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潮の香りと波の音がないと落ち着かなくなったのは、ごく最近のことだ。それまでは海なんて縁の遠いものだった。そしてとうとう、しっかり地に足がついていることにも違和感を覚えるようになってしまった。自分がだんだん人間から遠ざかっていくことに黒鋼は嘆きも悲しみも感じずにいた。
荷物はほとんど持ってきていない。雨風しのげれば問題ないし、雑貨などは極力持たないようにしている。いつ死ぬかわからないのだから、処分に困るようなものは、持たない。それは黒鋼に限ったことではないが。
長旅の末、たどり着いた場所は、貧相な木造の家だった。それなりの広さはあるが、地震でもくればすぐに崩れそうだし、強い風が吹けば飛んでいきそうでさえある。その屋敷の玄関の前に立ち、黒鋼はもう一度そこに立てかけられている看板を読んだ。
「呉、港の鎮守府」
そう書かれた達筆な文字を何度も読み返した。黒鋼は先日まで横須賀の鎮守府に所属していた。しかし一昨日、そこを追い出されることになった。覚悟はしていた。最悪の場合、解体処分も考えていたが、それはどうにか免れたらしく、横須賀の提督から「呉の方へ行け」と言い渡された。
だから黒鋼はてっきり呉鎮守府へ異動になるのだと思っていた。それなのに、もらった地図に書かれたとおりに進んだ先にあったのは、このおんぼろの屋敷。首をかしげるばかりだが、確かにここは鎮守府らしい。しかし鎮守府であるならば、こんなただの家であるはずがない。開発や建造のための施設がどこにも見当たらないどころか、人ひとりいやしない。誰の声もしないし、ただ近隣の林からセミの鳴き声が聞こえるばかりだった。
黒鋼は悩んだ。けれど立ち尽くしていても解決しない。玄関を控えめに叩き、誰かいないかと声をかけた。誰も出てこないのではないかと思っていたが、意外にもすぐに返事があり、ガラガラとたてつけの悪い音を出して戸が開いた。
◇◇
その2
「駆逐イ級が三隻、ロ級が二隻、軽巡ホ級は一隻、でも大破しています。軽空母ヌ級が一隻いますが中破、それと重巡リ級が二隻です」
さくらの報告で主砲を構える。軽空母は飛行甲板をやられているため攻撃してこない。軽巡も轟沈寸前だ。黒鋼が狙うのは重巡リ級。ほとんど人に近い姿をした深海棲艦。
奴らは力の強い者ほど人の姿に近づく。なぜかは解明されていないが、最近では人の言葉を話す者まで発見されている。だが奴らは決してこちらとコミュニケーションを取ろうとはしない。人間を、艦娘を沈めるためだけに存在している。
敵もこちらに気付き、戦闘が開始された。すぐに黒鋼は主砲を放つ。弾は重巡のそばに落ち、波が上がった。轟音が鳴り響く。相手も攻撃を開始した。さくらも負けじと連装砲を放ち、敵の攻撃を回避する。
ファイは再び光の輪を出現させ、第二次攻撃隊を発艦させた。さっきも思ったが、ファイの艦載機の搭載数はかなりのものだ。あれだけの数を運用するには、相当の精神力が必要だ。
駆逐イ級がこちらに近づいてくる。この程度の敵ならば脅威には感じない。空母はすこしやっかいだが、甲板さえ破壊すれば後回しにできる。だが出会って二日目の人間と共にする戦闘となれば意識は散り散りになる。
さくらがイ級に攻撃する。弾は直撃し、イ級は低いうなり声を上げながら沈んでいく。続いてロ級にも放ち、これも至近弾で命中させた。
かなり大胆な攻撃をしている割にはさくらは全く被弾していない。水浸しになりながらも少しも動きに迷いがない。
さくらに気を取られていると、ファイの前後に大きな水柱が上がった。
◇◇
こんな感じで海で戦うよ