忍者ブログ
BL,NL,GLが入り乱れております
[132]  [131]  [130]  [128]  [127]  [126]  [125]  [124]  [123]  [122]  [121

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

黒ファイパラレル

更新の間の場つなぎでパラレル小ネタ
追記にてどうぞ

人魚姫的な感じだけど、ロマンチックのかけらもないから半漁人パラレルと呼んでいいよ
洋風。18~19世紀くらいのイメージ




嵐の過ぎた次の日の昼、海は嘘のように穏やかだった。
あれほど荒れ狂っていた波は一定のリズムで引いては寄せる。
遠くの地平線は陽光に消し取られ、もう上も下もわからない。
黒鋼は片手で強い日差しを遮りながら浜辺へとおりて、深いため息をついた。
一昨日の父親とのやり取りが、何度も彼を苛立たせるのだ。
父親は黒鋼を理解しようとしなかったし、黒鋼も父親を理解しようとしなかった。
別室ですすり泣く母親の押し殺した声でさえ、黒鋼の心を不快にさせるだけだった。
家を飛び出した黒鋼は昨日は友人の家に泊まったが、今日もまた世話になる気はなかった。
もう誰かに頼ることはしたくない。
しかし自立の意志ばかりが先立って突発的に家出した黒鋼には行く当てもない。
おそらくのたれ死ぬこともできはしないだろう。
今も町では多くの召使が黒鋼を探している。
今日はどこへ身を隠せばいいか、ともう一度ため息をついたところで、視界の片隅に金色が見えた。
なんだろうとそちらを向いてみると、驚いたことに、浜に人が倒れていた。
金髪の、おそらく男だろう、砂にまみれた裸の男がうつぶせに倒れているのだ。
昨日の嵐で死んだのだろうか、それとも海賊に身ぐるみ全てはがれた貴族だろうか。
黒鋼は戸惑った。
自分では自分を勇敢で正義感のある人間だと思っていたが、いざそれらが試される状況になるとためらってしまう。
死体だ、とはっきりと思った。
見ない振りをしろ、と心の中の誰かが叫んだ。
一歩後ずさり、ゆっくり死体から目をそらしていこうとすると、死体が突然顔を上げた。
その衝撃に尻餅をつきかけるのを何とか足を踏ん張ってこらえた。

「あ……人間だ……」

死体は掠れた声で黒鋼を見て言った。
まるで自分は人間ではないかのような物言いに、黒鋼はさっき以上に逃げたいという気持ちが強まっていた。

「ね、人間でしょ? オレ、あのね、海から……うわぁ!?」

死体が緩慢な動きで起き上がろうとしたとき、顔面から砂浜に崩れ落ちた。
声をかけるべきか、助けるべきか黒鋼は迷った。
弱っている人間がいるからといって全てを助けることだけが正義ではないのだ。
死ぬべき人間は抗わず死ななければならないし、抗ったところで敵う相手でもない。

「あれー? 立てないよー?」

砂まみれになるのも構わず彼はごろごろ転がりながら何度も立とうと試みた。

「おかしいなー、足はあるのになー」

嵐の海に飲まれて気が狂ったのだろうか。
黒鋼は悩んだ結果、手を貸すことにした。
助けるべきはまず隣人からだ。

「つかまれ」

転がったままの男に手を差し出すと、男は嬉しそうに黒鋼の大きな手に縋った。
しかし力の強い黒鋼が引っ張り上げてやっても男は自分の力では立てなかった。
力の入れ方がわからない、と言う。

「オレ、昨日まで海で暮らしてたからなー。やっぱりそう簡単には立てないかー」

「海でって……おまえ海賊か?」

「違うよ、人魚だよー」

「…………海賊か?」

「人魚だってばー」

もう一度確かめてみたが答えは同じだった。
黒鋼は彼を貴族か海賊かと予想していたが、まさか人間ですらない答えを返されるなんて思ってもみなかった。

「人魚だけど泳げなかったから、人間にしてくださいってお願いしたんだよ」

黒鋼の両腕にしがみついたまま全裸の男はにこりと笑った。
砂にまみれているが、きれいな顔をしていた。

「人魚のくせに泳げなかったのか」

信用する気は毛頭ないが、この男が哀れに思えたので話に乗ってやることにした。
頭ごなしの否定は良くない、それは黒鋼も身をもって知らされていた。
男は顔に張り付いた金の髪をうっとうしそうにはらった。

「うん。泳げなかったからいつも昆布を体に巻いて流されないようにしてた」

「ラッコみてぇだな」

「えへへー」

なぜそこで得意げな顔をするのかわからなかったが、笑った顔は無邪気でかわいらしいものだった。
年の予想はできないが、黒鋼よりも年上のようだ。
きっとこの嵐で乗っていた船が難破して、さらに不運にも海賊に襲われ身包みを剥がれ、海へ捨てられ気が狂ってしまったのだろう。
哀れなことだ、自分を人魚なんてものと思い込むなんて。
黒鋼はこの男がかわいそうでしかたがなくなった。
記憶もなく帰る場所もないだろう男の境遇が、自分のものと重ねられたのだ。
孤独が和らいでいく感覚が心地よくて、つかんだ腕に知らず力をこめていた


終わり


続かないよ

拍手[5回]

PR

お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
非公開コメント
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
フリーエリア
最新コメント
[05/19 しろぎつね]
[04/27 しろぎつね]
[04/17 しろぎつね]
[04/09 しろぎつね]
[04/04 しろぎつね]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
K.藤井
性別:
女性
自己紹介:
旧・藤井神奈です
BLNLGLが入り乱れてますのでご注意
(´・ω・)
↓ついったーは好き勝手やってます
3316tpをフォローしましょう
バーコード
ブログ内検索
最古記事
P R
忍者画像RSS
アクセス解析

忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne