「悪かった」
黒鋼はこういうとき、ほんとうに反省している表情をする。
彼はファイみたいにその場に合わせて顔を変えるなんてことはできないから、ほんとうに心から悪かったと思っているのだとわかる。
だからファイは笑ってあげる。
「いいよ」
殴られたところは痛い。
口の中が切れて、さっきから血の味がしているけれど、気にしなければいいだけのことだ。
蹴られた腹も、引っ張られた髪も、体の痛みはすぐに治ってしまうのだから。
「おまえが、他の奴のところへ行ったんだと思った」
「行くわけないよ」
今日の黒鋼の暴力の原因は、ファイが出かける前に告げた帰宅の時間に帰ってこなかったことだった。
電車が人身事故で止まってなかなか動き出さなかったため、予定よりも40分ほど遅れてしまった。
そのうえ携帯は充電が切れてしまい連絡もできなかったのだ。
玄関に入ると説明する間もなくファイは黒鋼に怒鳴られ、殴られた。
聞いて、と何度も訴えたが無駄な叫びだった。
「もう、嫌になったか」
「なにが?」
「俺といることが」
「ならないよ」
ソファにしがみつくようにしていたファイは、正座をしている黒鋼の膝に手を置いた。
「なにをされても、嫌いになんてならないよ」
ファイの手を黒鋼が握り締めた。
黒鋼の手には、昔やんちゃしていた頃に作った傷跡がある。
痛む体を動かして膝立ちになり、黒鋼の大きな体を抱きしめる。
あつくて、さみしい体だ。
「いてあげる。君に捨てられるまでは、ずっとそばにいてあげるからね」
捨てるものか、と黒鋼ははっきりと口に出したが、信じるつもりはない。
信じるつもりはないが、ファイは黒鋼を無条件的に信頼していた。
こんなやりとりも、もう何度目か知れない。
何度も何度も同じことを繰り返してふたりとも全く学習しない。
でもそういている間は出口も終止符もないから、ファイはずっとこんな時間が続けばいいと願っていた。
「君がこのまま堕落して、みんなに見捨てられて、孤独になってしまえばいいのに、ね」
終わり
続かないけどこういう黒ファイは書いてみたい
[2回]
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