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解放されし私

そろそろ更新再開しますー
まだ何も書いてないけど


追記にて花の妖精最終話です
日記も普通の方も拍手ありがとうございましたー!








花のワルツ 3


声をかけても顔を上げない。
揺さぶっても息を荒くするばかり。
苦しいのか、痛いのか、ファイは何も言わない。
焦るばかりの黒鋼はそっとファイの体を抱き上げて子供をあやすように背中をなでた。
黒鋼に爪を立てるようにしがみつくファイが、顔を真っ青にしてようやく声をだした。

「・・・ず・・・」

「なんだ!?」

「み、ず・・・・・・」

「水!?」

とっさに台所へ向かおうをしたが、ファイが首を振って違うと引き止めた。

「オレじゃ、なくて、本体が、枯れかかってる、の・・・」

本体と言われて何のことか一瞬理解できなかったが、ファイは花の妖精だった。
隣のベランダに本体があるのだと、最初に言っていた。
要するにここ最近まったく雨が降らなかったため、本体が枯れてしまいそうになっているということらしい。
ならば水をやればいいだけのことだ。
なのにそんな簡単なことが、黒鋼にはできない。
隣の部屋のベランダにあるというそれだけのことが黒鋼の妨げとなっている。
ファイが瀕死の状態にあるのは明白なのに、不法侵入という、あまりにも現実的な問題が黒鋼の行動を抑制している。
アパートのベランダの隔たりは、緊急時のために簡単に破れるようになっている。
黒鋼は、その行動自体が可能か不可能で言えば、今すぐその隔たりを壊してファイに水を与えることができるのだ。
しかしそれはしてはいけないことだし、隣人に言い訳のしようもない。
ベランダの植物が枯れかかっていたので水をやるために不法侵入なんて、許されるはずがない。
黒鋼は悩んだ。悩んで、ファイをソファにそっと寝かせると、ボウルに水をいっぱいにそそぎ、ベランダに出た。
思い切り乗り出して隣を見る。
あった、一番遠い位置にある、かすんだ緑のあの小さな植物が、ファイの本体だ。
片手で手すりをつかみ乗り出した体を支え、もう片方の手でボウルを持つ。
届くだろうか、と思ったが、届かないなら届くまで挑戦すればいいだけだ。
腕を振って遠心力を付け、手首の傾きを調整してボウルの水を隣のベランダの本体に向かって投げ入れるようにぶちまけた。
が、水は黒鋼の思う通りには動かない。飛散した水はベランダの窓にすべて当たってはじけた。
もう一度ボウルに水を注ぎ、同じように、傾きを変えて挑戦する。
高すぎた。ばらばらに散って雨のように小さな粒になった。
もう一度、もう一度。苦戦しながら何度も挑戦した。
ベランダはとっくに水浸しだが、悪いのはファイをほったらかしにして帰ってこない隣人だ。
そして何度目かの挑戦の後、見事に水はファイに命中した。
あれで水が足りたかわからないし、衝撃で土が掘れたかもしれない。
急いでファイのもとへ駆け寄ると、ファイは幾度か深呼吸をして、黒鋼を見上げた。
そして潤んだ蒼い瞳をさらに潤ませ、唇を震わせてありがとうと言った。


*****************************

「あー、だから、ベランダに植物あるだろ…ありますよね」

「ありますけど…なんですか…?」

明らかにおびえた顔をしている男に、黒鋼は苦い顔で説明する。

「下から見えたんだが、その、枯れそうなんだよ、あれ」

「そ、そうですか…」

もういいですか、と言いたげな隣人をどうにか引きとめ、玄関前で頼み込む。

「また留守にするんだったら、あー、譲ってくれないか…くれませんか」

顔の怖い大きな変な人に捕まって泣きそうな隣人は、黒鋼と本気で関りたくないらしく、二つ返事でベランダの食虫植物を黒鋼に渡した。
彼のおよそ半年ぶりの帰宅を、恐ろしい思い出にしてしまったことに黒鋼は罪悪感を抱いたが、もはや自暴自棄の域にあった。
どうせまた長い間、留守にする奴だし、関わりだってもう二度と持たないだろう。
部屋に持ち込んだ黄色いつぼみをつけたファイの本体を、じっくり眺めて心を落ち着かせた。

「食虫植物ってのは、もっと気味悪いものだと思ってたがな」

「いろいろだよ。人間と一緒でね」

すっかり元気になったファイはまた以前と同じように人間と同じような暮らしをしている。
黒鋼と共に。

「でも約束、破られちゃったねー」

「約束?」

「ドラマが終わるまでっていう約束。今更、他人に譲ったりなんかしないよねぇ?」

にこりと笑うファイは、本当は怯えているのが丸わかりだった。
死に直面したファイはあのあと、しばらくのあいだ黒鋼にぴったりくっついて離れなかった。
仕事に行くときは仕方がないが、家にいるあいだは、ずっとだった。
黒鋼はまだ死を身近に感じたことがないからわからないが、それはとても恐ろしいことなのだろう。
自分の何もかもを失ってしまう感覚なんて、もう味わいたくはあるまい。

「あんな恥かいてまで、わざわざ他人に譲るかよ」

本体の上を飛び回っていたファイを捕まえて頬を引っ張る。
やわらかくて、子供のような肌だ。

「いひゃいー。にゃんでひっぱるのー!」

「あんなに必死になっちまうなんてな」

「オレのことそんなに気に入ったんだー」

気に入った、というのは確かだろうけど、自分はこんなに情の深い人間だっただろうか?
関係ないものは関係ないと切り離してしまえる性格だったのに、こんなに執念深い行動をどうして実行できたのだろうか?
でも考えてもしかたのないことは考えたくない。

「そういや、普通の人間の姿っての、なってみろよ」

「えー。やだー」

「なんでだよ」

「恥ずかしいもん」

「なにが」

「大きくなったらただの成人男性だもん、オレ。今みたいにぷくぷくの可愛い姿じゃないもん」

「自分で可愛いとか言うな。つーか俺はおまえのこと可愛いなんて思ったことねぇし」

「うそ!!??」

両手で口を覆ってファイは大げさに驚いた。
愛嬌があるのは認めるが、可愛いなんて思ったことは一度たりともない。
ショックだったらしいファイは肩を落とし、何かぼそぼそつぶやいていたが、吹っ切れたように背筋をただした。

「わかったよ、その方が便利だし、もう隠してられないし」

少しだけ身を屈めたファイの体がわずかに光り、かと思うと一瞬にして小さなファイの姿は消えていた。
代わりに、目の前には黒鋼よりは少し背が低いが、長身のすらりと細長い男が緊張した顔で立っていた。
小さいファイの面影をしっかり残したふわふわの綿毛みたいな金髪と、宝石みたいな蒼い瞳。
そして面影のまったくない長い手足、丸かった顔も人間らしく平面的になっている。

「こ、こんな感じですけど…」

「ほー。きれいだな」

「え!?」

凝った感想なんて言えないから、単純な感想を述べるとファイは頬を染めてうつむいた。
そのしぐさに妙な雰囲気を感じ取って、黒鋼は慌てて話題を変えた。

「まぁ、なんだ、これからは枯れる心配もなくなって良かったな」

「う、うん。ただの植物ですけど、よろしくお願いします」

ファイは丁寧に頭を下げて、そのまましゅるんと音を立てて小さな体に戻った。

「なんで戻るんだ?」

「だって、こっちの方がいいでしょ? これから一緒に暮らすんだから」

「だからなんで」

「いや、さっきの大きさだと、普通に男と同棲生活ってことになるしー…」

言われてみればそうか、と納得したが、黒鋼にはそのような感覚は持てなかった。
最初に妖精だと言われているものだから、大きくなった姿を見てもファイは「大きいファイ」で、「成人男性」だという意識をもてない。
もしかしたらこれは危険な認識のしかたかもしれない。

「んなこといちいち気にしねぇよ。おまえがいたい姿でいればいい」

困ったように笑うファイにそれだけ言って、本体を日当たりのいい窓際に移動させた。
ファイは普通の植物ではないからファイの言うようにしていればいいのだろうけど、一応は育て方くらいは調べたほうがいいだろうか。
まだしばらくは咲きそうにないつぼみを優しくなでてみれば、ファイが後ろでくすぐったそうに笑った。


END

終わりだよ!

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