Give! Me! C
hocolate!
いつものようにファイとユゥイと共に食事を終え、黒鋼が風呂から上がってリビングの扉を開けようとすると、中から何やら神妙な話し声が聞こえて反射的に手を止めた。
双子がテーブルに向かい合って座り、深刻な面持ちで話し合っている。
「だからねファイ、何度も言うけど、市販のチョコを溶かして固めただけじゃ、手作りチョコとは言えないんだよ」
ユゥイが諭すようにファイに言う。
それを聞いてファイは困惑したように声を震わせる。
「でもオレは職人じゃないから、いちからチョコを作るなんて、無理だよ・・・」
「そもそも、それが間違ってるんだ。職人がチョコを作ってるわけじゃない」
「え、でも・・・」
「ボクも一応料理人だから言えるんだけど、たとえばエビフライを作るとするよね。エビフライを作ったのはボクでも、エビを創ったのはボクじゃない。つまり、ファイはチョコケーキやトリュフを作ることはできても、チョコを創ることはできないんだ。最初から手作りチョコなんて不可能なんだよ」
何の話だ。
全く展開が読めず黒鋼は扉の前で顔を引きつらせた。
「いや、あの、オレはチョコを新たに創り出す気はないんだけどー・・・」
「でも最初にファイは言ったよね、黒鋼先生に手作りチョコを渡すんだって。他の人が作ったのじゃなくて、自分が作ったチョコを、自分だけのチョコを食べてもらいたいんだって」
「うん、そうだけどー」
黒鋼は毎年、バレンタインにはファイからチョコをもらっていた。
甘いものは苦手だからとビターチョコを使った、かわいく形作られデコレーションされたチョコだったが、それでも黒鋼は甘く感じていた。
けれど、ファイが一生懸命作ってくれたものを悪く思うはずもなかった。
どうやら双子はバレンタインに自分に渡すチョコについて話合っているらしいが、妙な方向性を持ち始めている気がする。
「これまでファイは、手作りチョコと言いながらも結局は他人が作ったものを黒鋼先生に渡してたんだよ」
ユゥイの言葉にファイが息を呑んだ。
「最初にチョコを作ったのは誰かは知らない。カカオ豆から作ったんだろうけど、それだってその人はカカオを使ってチョコを作っただけで、カカオという材料を他から与えられたからこそ作れたんだ」
「確かに・・・」
確かに、か・・・?
双子はいつも黒鋼には理解しがたい話をしているが、今日はいつにも増して理解できない。
「つまり! ファイはずっと黒鋼先生に自分の手作りの、真の愛のこもったチョコをあげていたつもりだったかもしれない! でもそれは嘘だ! ファイは神に与えられたカカオを使い、見知らぬ人が加工したチョコを、また見知らぬ人の作った調味料を加えて渡していただけなんだよ!」
「そんな!」
「これは要するに、黒鋼先生はどこにいるかも知れない人間の愛を受け取っていたということなんだ。ファイがこの台所で気楽にチョコを溶かすときの情熱と、生きるために仕事としてカカオを加工している人たちの情熱を比べれば、わかることだけど」
わかるか、という突っ込みをぐっと抑えてもうしばし様子を見る。
ファイはすっかり気を落としてしまっているようだ。
「ということは・・・毎年黒りんにチョコを渡すたびに、黒様は見知らぬ男の愛を受けていたということに・・・?」
「そうなるね」
「あぁ! オレはなんて罪深いことを!」
「大丈夫、気付けたんならそれでいいんだ」
泣き出しそうなファイの声を聞いて、黒鋼はとうとう自分の神経を疑った。
なんで自分はあんな頭の悪い人間を選んでしまったのかと、生んでくれた両親に土下座して謝りたくなった。
「だから今年からはもう黒鋼先生にチョコをあげるのは止めた方がいいよ」
「そうだね・・・」
えっ?
片手で顔を覆っていた黒鋼はとっさに顔を上げた。
「でもボクはファイの作ってくれるものなら、たとえ他人の愛がこもっていても気にしないからね!」
「わかったー。じゃあ今年はユゥイにだけ作るよー」
こいつ・・・これが目的か・・・。
呆然と立ち尽くし、ようやくこれまでの意味不明な会話の意図を理解した。
ユゥイのファイに対する愛は目に余るものだったが、まさかここまでとは・・・。
「あれー? でも、ユゥイが気にしないんなら、黒たん先生も気にしないんじゃ・・・」
「そんなことないよ何言ってるのファイはバカだなぁ、極言すればチョコを渡すってことは黒鋼先生が見ず知らずの屈強な男に組み敷かれてるのと同義なんだよ」
「えー! そうなのー!?」
「そうだよ」
力強くうなずくユゥイに、とうとう黒鋼は堪忍袋の緒が切れた。
「え、じゃあユゥイに渡せばユゥイも屈強な男に組み・・・」
「違うよ。ボクはちゃんとそういうことを拒否できる人間だから」
「そっかー。黒たんは拒否できない人間なんだー」
「てめぇら勝手なこと言ってんじゃねぇぞ!!!」
「「あっ」」
ばーんと大きな音を立てて扉を開け放てば、双子が同じ顔でこちらを向いた。
「黒ぴーごめんねー! オレ、毎年黒様を屈強な男たちに陵辱させてたみたいー!」
「されてねぇよ!」
「わーどうしよー、去年はホワイトチョコも使っちゃったー! なんて卑猥なー!」
「卑猥なのはてめぇの頭だろうが!」
椅子に座ったまま黒鋼の腰に抱きつくファイに気を取られていると、ユゥイがそそくさと席を立つのが目の端に映った。
「おい待て元凶」
「やだな元凶だなんて口の悪い」
にこにこと笑うユゥイにイラついて拳を握ると、まぁまぁとユゥイが慌ててなだめた。
「えーと、そう、だからこの世界にあるものは全て他者の手によって作られたものって話なんだけど、でもファイ自身はどうだろう? ファイも生まれようとして生まれたわけじゃないだろうけど、今のファイはファイが作り上げた人格だよね? たとえ神が人間を創っていたとしても、人間の意思は神の意思に反することが可能だ。禁断の果実を食べたようにね」
また訳のわからない話が始まった、と思うと、ユゥイが意地悪く笑った。
「だからファイが黒鋼先生にあげられる、唯一他者の介入のないものは、ファイ自身だけってことだよ」
「それは・・・どういう・・・?」
「じゃ、ボクはこれで失礼します」
目をぱちくりさせるファイの頬にキスをして、ユゥイは軽やかに部屋を出て行った。
ファイはよく分からないという風だったが、今までのユゥイの話とは違い、最後の一言は黒鋼にも十分理解できるものだった。
ユゥイは誰の味方でいるつもりなのだろう。
「んー・・・なんかよくわかんないけど、今年は黒様にチョコあげられないみたい・・・」
腰にしがみついたままだったファイが悲しそうに黒鋼を見上げた。
チョコが欲しかったわけではない。
決して欲しかったわけではないけれど、なぜか悔しくて、でも、いいからこれまでと同じように作れ、とも言えなかった。
バレンタインまであと一週間だ。
さぁどうなる。
END
「市販のチョコを溶かして固めたものは手づくりチョコじゃない」とはよく見かけるセリフだけど、じゃあどこから作れば手作りなんだろうと考えたらこんな話ができました
そんなんもう、チョコの定義を新たに創るしかないよね
そしてどうなる黒ファイバレンタイン
ほんとにこれ黒鋼先生はどう打開するんだろう
[6回]
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